大学時代にアルバイトで家庭教師をしていました。今回は最後となる4件目の家庭について書きたいと思います。県内トップクラスの公立進学校の高校3年男子でした。4月から12月までの9カ月の短い期間、理系の数学だけを教えました。一人っ子で親の期待は相当なもので教え子本人もそれを感じていたようでした。また進学校内で周りとの差に悩んでいたのか何か焦燥感や悲壮感のようなものが感じられました。
進学校ということもあり基礎学力はある十分あるようでしたが点数や順位に繋がらないのか問題を解くテクニックを求めていました。したがって指導内容は問題の捉え方やパターンの見つけ方など短期間で点数に直結する内容が多かったです。
知識や理解を深めたいという欲求に知的好奇心という言葉があります。テクニック習得にもまた好奇心が必要な気がします。この場合は新しい情報を幅広く求める拡散的知的好奇心があてはまるように思います。私が受験勉強をしていた時にも学習塾で習った解答が芸術的にみえて「かっこいい、ものにしたい!」といった感情がありました。たぶんこのおかげで習得が進んだのでしょう。勉強から離れた今でも数学の芸術的な一面に惹かれています。
教え子にはそんなことを思う余裕はなかったようです。ひたすらにテクニックを暗記しようとしていました。食欲もないのに食べ物を無理やり詰め込もうとしているようで気の毒にも思いました。残念ながら当時は数学の魅力や美しさを伝える発想も時間もありませんでしたが、職業意識を持って振り返るとテクニックを身に付けたいと要求されたならまずその土台となる好奇心を引き出すことをすべきだったかな、と思います。少し悔いの残る家庭教師先となりました。