郵便配達

 高校生の頃に郵便配達のアルバイトをしていました。担当したのは速達でした。郵便カバンに加え腰から下げるバッグに郵便物を入れて赤い自転車で担当地域を回りました。腰のバックには書留など特別なオプションがついていたものを入れていたと思います。速達は一般郵便より少ないため広範囲を担当することが多かったと思います。配達前に全ての住所を確認し、効率的に回るイメージを作りました。おかげで番地がどのような法則で付与されているのか身につきました。

 郵便物に鉛筆でほんの小さなメモを書くことがありました。私の場合は目標とする交差点や建物と配達先の位置です。地図ではなく一見して何かはわからない自分だけの暗号みたいなものです。これは家業の果物屋の配達で父から配達先を教わるイメージと非常に似ていました。お互いに頭にあるものは言葉にする必要はなく「ドンと当たって右の奥や」と聞いただけでどこの村のT字路でどうやって玄関に回るか伝わります。この要領で封筒の暗号は小さなTの字と横棒の右上に黒点を付けたような感じです。配達前の準備が成果に現れるのでこの準備は楽しかったです。

 当時の速達は全て手渡しだったと思います。一軒ずつベルを鳴らしたり、大きな屋敷の住人を探したりして面着していました。そうすると意識せずとも生活感や人間模様を感じ取ってしまいます。郵便物、配達人に対する反応も様々でした。もちろん口外することはできません。

 このアルバイトは高校の1、2年生の僅かな時間だけでしたがいろんな気付きがありました。細かな路地を通り、面着で郵便物を手渡すことで実にいろんな人がいて暮らしがあるのだと思い知らされました。大人になった今でも見ることのない光景もありました。知らないことがたくさんあるという前提は転機に直面しても少し冷静にいられるような気がします。