VUCAの時代なのだから

 VUCA(ブーカと呼ばれる)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった言葉で予測困難な状況を意味しているそうだ。数年前から使われるようになったが、最近もまた目にしたので書棚を探しみた。

 『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』(日本経済新聞出版社)という本があった。初版発行が2019年11月発行とある。米国赴任から戻った年で見聞を広めたところでもあったので「確かにそうだな、なんだかワクワクするな」と思ったことが思い出された。予測困難ということはどんなにリスクを考慮しても限界があると社会が認めているわけで「それならやってみよう」という機運が高まるのではないかと思ったからだ。いろんな分野においてより挑戦的な開発が進むのではないかと思っていた。

 しかし現実はそうはならなかったように思う。バブル崩壊やリーマンショック、自然災害で苦労した経験はVUCAでネガティブな想像を膨らませ、VUCA自体が具体的な事象でないこともあって不安はさらに膨らんだようだ。その結果、計画はするものの際限なくリスクは挙げられ、確度の高い答えはなく一向に実行へ移らない膠着状態に陥った。もちろん全てがそうだということではない。

 加えて2020年からは新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり完全に機能停止に陥った。辛いことも多かったが、これとて新しい働き方や暮らし方が認知され、人の流動化も加速するのではないかという期待があった。リモートワークも流行った。しかしパンデミックが終わればリモートワークでパフォーマンスを上げた社員も含めて一律に職場に戻るよう強制する会社もあり、嘆き節を聞く機会も少なくない。人やお金も海外に流出した方が多かったのではないか。

 私の目論見があてにないのは認めるとしても、全体が停滞しているよう見えても密かなチャレンジを繰り返し前進している人たちがいるだろう。取り返しのつかない遅れにならなければいいのだが、と思う。そこでまた思う、先の苦難を経験していない「何とかなるっしょ」と軽く口にできる世代に託してみては。どのみちVUCAの時代なのだから。

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