働かない仕事

 学生時代のアルバイトの中で『働かない』時間の多い仕事がありました。ある人のアシスタントとして仕事場に行くのですが毎回同じ仕事ではないので、その人の名字を取って『Nさんバイト』と呼んでいました。学生寮の仲間内でももちろん人気がありました。Nさんも面倒見がよく、留年中の学生には逆指名をしてくれたりして私もずいぶんお世話になりました。

 基本的には電気工事屋さんだったと思うのですが、どの仕事場でもほとんど仕事をしません。朝、駅でピックアップしてもらい倉庫のような場所に立ち寄ります。工具や資材を積んだ後、その日の仕事場に向かいます。私がよく行ったのは自動車部品会社でした。仕事場に着くのは10時頃で着いたらまず一服です。Nさんはタバコと缶コーヒーが大好きで銘柄も決まっていてピースとポッカ(本人は顔の描いてるやつと呼んでました)でした。おしゃべりも大好きで実に小一時間の一服です。

 午前の一服が終わるとほんの少し作業をします。試験機の検査のようなものでした。私の役目はトランシーバーからのNさんの指示に従って配電盤の端子にテスタをあてることでした。今思えば検査の外部委託のようなものだったのだと思います。設備自体が特殊で機密上の制約もあることからころころと業者を変えることがなく、いわゆるズブズブの関係の中で委託されていたのだと思います。

 30分もすると「そろそろ昼飯だな。混む前に行こう」と敷地の外に食べに行きます。そこでもゆっくり食事とタバコとコーヒーとおしゃべりです。戻ってくると2時過ぎでちょこっとやったら3時の休憩。もはや笑えます。最後にまたちょこっとやったら撤収です。こちらは体力と好奇心が有り余っているのでつい張り切ってしまい「そんなに働かんでいいぞ」とNさんによく言われました。人懐っこい笑顔が印象的でした。

 憧れるようなことはありませんでしたが、こんな仕事もあるんだと受け止めていました。しかし後に社会に出た時にすごく納得しました。実社会ではこのような事例はいくらでもあります。良いか悪いかはわかりません。ただ、つくづく人も仕事も巡り合せだなぁと思います。Nさん元気かなぁ?