家業の果物屋の手伝いに配達がありました。お客さんの中には大きな屋敷のある地主さんも多く、お盆前にはスイカやお供え物が特によく出ました。自転車の後ろに段ボール箱を括り付け、そこに商品を入れて運びました。時にはネットに入った大きなスイカを片手に下げ自転車の片手運転ということもありました。今だとおまわりさんに叱られますね。
完熟したスイカは少しの衝撃でも割れることがあるそうです。包丁を入れた瞬間にパリンと割れていくあの感覚でしょうか。ある日完熟のスイカにあたったのか、配達中に割ってしまったことがあります。幸いお客さんに渡す寸前に気づいたので、新しいものを届けるように伝えて店に戻りました。何かと厳しい父でしたのでとても気が重い帰路でした。
ところが父の対応は予想と全く違っていました。叱るでも不機嫌になるでもなくすぐに割ったものよりやや大玉なスイカを用意し、改めて私に配達を頼みました。拍子抜けした気持ちになりながらもお客さん第一な父の姿に感動を覚えました。叱られるかどうかを心配していた自分が恥ずかしかったです。
しかし転んでもタダで起きないのもまた父でした。配達から戻ると割れたスイカは芸術的に破断面をそぎ落とし、幾つかのくし形切り(スマイルカットとも呼ぶそうです)となってラップをかけられ、早速店頭で売られていました。店裏にはおやつにちょうどいい大きさの破断面を含んだ端切れが残されており、父は涼しい顔してそれを一口かじると「おう、よく熟れとんな。思えも食えや」と言いました。
お客様第一の美しさと儲けを追う貪欲さを同時に感じた一日でした。今となっては理解できますが、当時の私にはインパクトがありました。おかげで物事には表と裏があると知り、不幸なことがあってもポジティブに受け止められるようになったような気がします。